兄貴は10歳年上で、今年40になるんやけど、
最近休みの日になると、兄貴の部屋からギターの音色が
聞こえるようになった。

オレは高校の時から細々とエレキギターを弾いてて、
ま、大学の部活でバンドとかしてたけど、ウンザリするほど
ヘタクソ。
音楽理論とかもさっぱり。

それに比べて兄貴は、大学でクラシックギター部の部長を
努めるほどのめり込んでいて、
オレが小学校の時は、それこそ何時間も、
メトロノームに合わせて半音階の練習を繰り返す音が
部屋から聞こえてきたもの。

練習中の音ばかりだけれども、
イエペスのスタンダードなものから、
モーツァルトの編曲から、
どこぞの民謡（名前聞いたけど忘れたな）まで、
いろんなものを聞かせてもらった。

その頃のその雰囲気だけは、今でもよく覚えてる。

その影響もあって、
オレは中学から兄貴のボロフォークギターを触るように
なったんやけど、
今度は逆に兄貴がギターを触らなくなってしもた。
どっちかというと憧れてたんやけどね。

兄貴はオレと同業だが、つくづくこの仕事っていうのは、
人から趣味を奪うのが上手い。
ちょっと気を抜くと、パワーの必要な趣味から順番に
趣味じゃなくなっていく。
替わりにコンピューターが趣味になる。
コンピューターは簡単だ。知識や理解力や金は必要と
するが、己の指の動きに限界を見ることもなければ、
耳の性能を危惧することも必要無い。

そら、趣味を諦めることについては、その人のパワー次第やし、
他の仕事にも言えること。ってことで置いといて・・・


結局、自身の結婚式で安易にJ-POPをストローク弾き
してる姿を見たのを最期に、
弾く姿どころか、音を聞くこともなくなった。


同居するようになってから、ということはここ数年前の話。
ふと、ギターケースを見かけて、

「もう弾かへんの？」

と諦め半分に聞いたら、

「ペグが壊れててな」

っていう答えに続いて、
ギターという楽器が、音量の面で如何にピアノやその他の
楽器に比べて劣っているか語られ、
あぁ、もう終わってるんやなぁ・・・と、
途中から耳を塞いだのを覚えている。


そんなことがあった数年のちの先日、兄貴の誕生日。
の翌日。

義理の姉に、兄貴が何をプレゼントに欲しがっているか、
聞いてみた。オレはそれに関してノーアイデアで困ってた。

そしたらば、

「メトロノームとか、ギターに関連するものがいいんじゃない？」

との返答。
？？？ってなって、もう一回聞きなおすと、

「このあいだ、ギター修理に出してたし、弾きたいんじゃない？」

とのこと。
小躍りしたわ。
ヨドバシカメラにおったけど、もーどーでもええ！
っちゅうて店を飛び出し、祝杯あげながら楽器店へ。
最初の店は、電子メトロノームや、安物しか見つからず、

「んなもん、あの兄貴に、んな安モン買えるかぁ！」

っちゅうて、店変えて、その店にあった一番高いメトロノームを
お買い上げ。「ネェちゃん！リボンつけといて」


まぁそんな感じで、週末の家が、今ちょっとオモロイ◆◇◆